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8月11日(木)

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私には今でもトラウマ的に覚えている小学生の頃の思い出がある。バイトを終えて一息つき、「仕事ってなんか文化祭に似てるなぁ」とぼんやり思っていたら、ふいにその記憶が頭をよぎった。世の中の理不尽に最初に出会った時だった。

小学校高学年の運動会。当日歌う予定の応援歌の練習をするために、私は他学年の児童たちと一緒に体育館に整列していた。先頭に立つのは私と同じ学年の児童たち。応援団に立候補するくらいだから、私と違ってどちらかと言えば活発で、ハキハキとした人が多かった。まあ、それは別に良いのだが、その日の彼らは気合いの入り方がおかしくて、皆が応援歌を大声で歌ってくれないことに、声を荒げて苛立っていた。

そんな中、彼らは「一人一人の口元を見て、声が出ているかどうかチェックする」と言い出した。応援団が「ヨシ」と言われた者だけ座らされ、そうでない者はずっと立たされるらしい。人目を気にする年頃。皆が一斉に声を出して歌い始めた。

そして気がつくと、立っているのは私だけになっていた。何百人もの児童がしゃがみながらこちらを見ている。当然ながら応援団は「なんで声を出さないんだ!」と私を叱責した。

たしかに当時の私は、人前で歌を歌うのがどうにも恥ずかしく、応援歌も細々とした声でしか歌えなかった。しかし多くの者がそうだったはずで、なぜ私だけがこんな目に合うのかわからない。応援団の連中とはそれほど仲が良いわけじゃなかったけれど、それにしてもヒドい扱いだった。そもそも私は最初から、運動会をやる意味も、それを楽しいと思う理由もわからなかったから、そういう冷めた態度がいけ好かなかったのかもしれない。大勢の児童に囲まれながら、私だけのために伴奏が鳴った。私はいよいよ歌わなくなった。悔しさと恥ずかしさと腹立たしさで、心はパンパンに膨れ上がっていた。

応援団の中の一人。とりわけ面の皮の厚いクラスメートの女子が極め付けにこう言った。「君のために皆を待たせているんだよ!」その時になって初めて先生が「〇〇さん、それは言い過ぎだよ」と制止してくれた。先生に止められた後の、彼女の「てへ」という笑みが忘れられない。クソみたいな笑顔だった。それから私は座らされ、応援歌の練習は終わった。

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23歳にもなって小学校の頃のことを書くのは、自分でも情けない気もする。しかしあの場で起きた出来事がこれからもきっとどこかで起きるのではないかという気がしてならない。とりわけ「仕事」ということを考えたとき、胸に不穏なざわつきが広がってくる。

高校の頃にも似たようなことがあった。全校生徒が体育館に整列させられ、応援団(=体育会系の男子生徒)が一人一人の口元まで耳を近づけ、声が出ているか、歌詞を覚えているかをチェックする。歌っていないと判断されれば、その場で「声出し始め!」と言われ、「もっと!もっと!!」と煽られながら、絶叫させられる。それでもダメと判断されれば、全校生徒の前に立たされ、晒し者にされる。因習としか言いようがない、本当にクソみたいな伝統だった。私も何度か捕まったことがあるが、怖い顔をして歩いてくる応援団の男が、個人的に親しい者の近くをすれ違うときにだけする、あのニヤリとした笑顔が嫌いだった。

小学校の頃の応援団の女子もそうだが、彼らはたぶんサディストなんだと思う。自分が多数派であることを疑わず、他人に自分の言うことを聞かせるのを楽しんでいるように見えた。なにより、他人を「上」か「下」かで判断し、そのことに何の疑問も持っていないようだった。

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たぶんだが、仕事をするときに「上下関係」を意識せずにいるのはとても難しい。客にお金を払ってもらうからには、店は決められたサービスを施さなければならず、給料としてお金をもらうからには、言われた通りのことをしなければならない。お金を渡す側が「上」であり、お金をもらう側が「下」になる。しかしながら、この感覚が自分にあまりにもないため、そのことによって今後トラブルを起こすのではないかと懸念せずにはいられない。そんな夜を過ごしている。

学校にいたときからそうなのだが、先生だろうが先輩だろうが、私は上下関係のルールをほとんど身に付けずに育ってきてしまった。普通ならば恐縮すべき場面で恐縮できず、恐縮しなくていい場面で恐縮する。自分でもよくわからないのだが、誰かと会っているときの私は、なるべく自分の本心をぶつけようとして、言わなくてもいいことまで言っているような気がする。他の人ならパッと聴いただけでわかるようなことが自分にはよくわからない。聞き流せばいいところに引っかかり、本当に思ってないことを言おうとすると、口がうまく回らない。とりわけ初対面の人には「やばい人かと思った」と言われることが多いのだが、こうして不特定多数の人が読める場所になんでも書けちゃうあたり、やっぱり私はどこか感覚がおかしいんだと思う。たぶん人との距離感がおかしい。どのくらい人と話せば「仲良くなった」と言えるのかわからないし、相手が自分のことをどう思っているのかもわからない。なんなんだろう。もう寝ます。