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東京に来て、5日目。そろそろ予算が尽きてきて、都会の目新しさも感じられなくなっている。朝起きたらまた次の宿を確保しなければならないというのは、なかなか大変だ。宿を探すためにはまず、インターネットの使える場所で腰を落ち着かせなければならず、そのためにはまた喫茶店やファミレスに入らなければならない。時間やお金の制約がある中で、日々、決めなければならないことが次々と現れてくる。実家にいると気が付けないけれども、生きるということの本来の姿はこういうものなのかもしれないと思ったりもする。なにもしたくないなあ、と思っても、なにかしら行動しなければ、ただ絶えず路上をうろつき回っているくらいしかできることがない。何もしたくない、という思いをそのまま達成できていた実家での日々の方が、考えてみれば今の世の中では珍しいことだったのかもしれない。

今、私は横浜駅の前のベンチに腰掛けている。向こうには路上生活者の人たちがダンボールを敷いて寝転がっている姿が見えた。広い公園も浜辺もないこの都会で身体を横に倒そうと思えば、家に帰るかホテルか漫画喫茶に入るしかない。そこを彼らは雨風の凌げる所にダンボールを敷くことで可能にしている。いいなあ、おれも寝転がりたい。そろそろ都会にも疲れてきたのか、次の予定を決める手がすぐに鈍るようになってきた。しかし、かといってせっかくここまで足を運んだのに、このまますぐ新潟へ「帰って」しまうのも惜しい気がする。そもそも私にとって新潟は「帰る」場所なのだろうか。どちらかといえばツイッターやユーチューブを見ているときの方が、またはこうして一人で考え事をしているときの方が、「帰ってきた」という感じがする。ああ、ネットを使えるカフェに早く入ってゆっくりしたい。

昨夜は漫画喫茶で夜を明かした。漫画喫茶で起きる朝には、体力が通常の40パーセントくらいの状態で一日をスタートすることになる。おまけに、訳あって二日ほどシャワーを浴びることができなかったので、全身の不潔感がたまらなく気持ち悪い。おまけに夜更けまでパソコンで作業をしていたため、眠りに落ちたのは朝の6時で起きたのは11時。さらに、食費を削るためまともな食事を摂っておらず、いろいろと満身創痍の状態になっている。今日はもうダメになっても仕方のない日だった。考えてみれば、良くやっている方だ。さきほど横浜から東京方面へと向かう電車の中で今晩の宿を最安価格で予約できたことに安心して、目的の駅を乗り過ごしてしまったけれども、まだそれくらいの被害で済んでいるだけマシだったと思わなければなるまい。

満員電車でグロッキーになりながら、目的の駅、板橋へ着いた。徒歩30分ほどの場所にあるゲストハウスへ向かう。無心で歩いていると、いくらか気分が落ち着いてきた。板橋って意外と庶民的な街なんだなあ。古い商店が残っていて、人間の匂いがする。

目的地に到着した。宿泊費は1600円ほど。今日はたっぷり寝よう。二日ぶりのシャワーも楽しみで仕方がない。

(更新中)