#6

明日、人と会う約束があるのだが、なぜかヘンなスイッチが入ってしまい、今夜は寝ないことにした。午後8時くらいからひたすら意味もなくマクドナルドで粘っている。現在時刻は午前1時37分。客は私とあと二人しかいない。そして今、そのうちの一人が荷物をまとめて出て行った。残るは私と、客席の隅で数時間前からパソコンにかじりついている男性の二人だけ。どちらが先に脱落するか。まだそこまで眠気は来ていないけれど、こんな夜更けまで店内に居て私は大丈夫なのか。店員さんに怒られたりしないのか心配で、胸が少しサワサワしている。パソコンにかじりついている彼には、できれば私と共に朝まで店内に居てほしい。

連日の移動で、そろそろ泊まる場所を確保するためだけにお金と時間を使いたくないと思っていた。お金は掛けたくないけれど、もっと時間を贅沢に使って、好きなだけ何もしない時間を過ごしたいと思っていた。気が付けばもうこんな時間だ。望みはある意味叶った。来るところまで来てしまったのだから、あとは野となれ山となれ、最後までやり切るしかない。

加えて私は今、もう一つの限界にも挑戦しようとしている。今朝バナナを4本食べてから、コンビニで仕方なく買ったカロリーメイトを除いて、私はほとんど何も食べ物を口にしていない。空腹を通り越すと、意外にも人は腹が鳴ったりしないらしい。代わりに、溶かすものをなくした胃が、分泌した胃液を余らせて逆に胃もたれを起こし始めている。一応胃薬は持っているが、果たしてどこまで耐えられるか。マイナスとマイナスを掛け合わせるとプラスになるように、空腹と睡魔が互いに互いを喰い合うことで、気分はどこか高揚しはじめている。

時刻は2時。驚くべきことに、こんな時間にもまだ街は活動していた。窓からは、すき家日高屋、それから1時間1500円と大きく書かれたガールズバーの看板が光って見える。街を歩く人もまだちらほら見かけるし、車やタクシー、自転車やバイクも四方から次々に現れては消えていく。というか、そもそもマクドナルドが24時間営業にしているのだって需要があるからだろう。当たり前だが、人は深夜でも起きていた。窓から見える目の前の道で交通整理をしている警備員の人も、点滅した棒を光らせてさっきからずっと街角に立ち続けている。

 

時間はまだたっぷりとあるので、せっかくだから今の自分にしか書けないことを書いていきたい。最近はなんだかやたらめったら書きすぎて自分でも自分が何をしたいか分からなくなっているのだが、ひとまず日々の生活を書いていくことくらいしか今の自分にできることはないので、つまらなかろうが鬱陶しかろうが、なりふり構わず書き続けていく。書き続けていくことで、「おれってこんなことを考えていたのか!」というような、思ってもなかったような自分自身を引き出してみたい。

私の考えることなんて高が知れていて、巷ではそんな行為を「フリーライティング」と呼んだりするらしい。思ったことを思ったように書いて、構成や体裁は後から整える。大切なのは速度であって、中身ではない。考えてから書くのではなく、書きながら考える。もはや書いてから考える、と言っても過言ではないかもしれない。自分がどう思っているかなんてどうでも良くて、思いついた言葉を思いついた順序でただ書き並べていく。次に何を書くかを考える前に言葉に落とす。書き続けることで見えてくる自分自身に委ねる。

なぜそんなことをするかと言えば、普段の自分では意識できない自分の無意識的な癖を自覚するためだ。意識で無意識を変えるのは難しい。自分で自分の姿を客観的に見るのが難しいように、日々の生活の中で無意識的に繰り返してしまっている自分の習慣を、自分の意識で変えるのはかなり難しい。なぜ難しいか。習慣とは自分そのものだからだ。今までの経験から、どのように振る舞えば自分が心地よいと思うかを知っている。それらをまとめたものが習慣だ。習慣は、知らず知らずのうちに変わっていくことはあっても、自分から変えようと思って変えられるほど生易しいものではない。

 

時刻は午前3時40分。頭の中は良い感じに煮詰まってきている。眠気は不思議と薄いけれど、空腹による胃の不調は激しくて、さきほど我慢ならず一服胃薬を飲んだ。心なしか、軽く頭も痛み出している。おそらく空調のせいだろう。早く店外へ追い出すためか、温度がやや冷たく設定されているような気がする。被害妄想かもしれないが。

 

午前5時29分。予定通り一睡もしてなかったはずだが、あっという間に時が経った。そろそろ「早めの朝」と言っても良いくらいの時間帯になってきた。意外と耐えられているが、今日一日保つかどうか。店内が非常に寒いので、そろそろ外へ出たい気がしている。ワンコインで食べられる海鮮丼屋を見つけたから、そこで昼食を食べるのが今日の目標だ。でも、その前に牛丼を食べてもいいんじゃないかと思っている自分もいる。どうしよう。

 

(更新中)