公園にて

近くの公園まで歩いてきた。誰もいない夜の公園だ。道沿いを走る自動車の音、近くを通る電車の音、原付、バイク、自転車の音。夜だからといって静かというわけではなく、あちらこちらから今も活動している人たちの気配が聞こえてくる。ガタンガタンという電車の音。それが終わらないうちに今度は車道を走る自動車のタイヤの音、それからエンジンを吹かせて走るバイクの音。一つの音が止まないうちにまた新しい音が聞こえてきて、感じる世界はどんどん複雑になっていく。その音が何の音なのかを理解する前に次々と知らない音が重なって、最後には雑音としか判別できない塊になって耳に届く。そうかと思えばまたパタリと音が止んで、今度は遠くで虫の鳴く音が薄っすらと聞こえてくるだけになる。

近くの公園まで歩いてきた、と、さっき書いたが、正確にはそうではない。どうにも煮詰まっていた作業があって、気晴らしにアイスでも買いに行こうかと家からコンビニまでふらふらと歩いていたのだが、途中で気が変わり、ふと目に入った公園のベンチに適当に腰を下ろすことにしたのだった。公園まで歩いてきた、と書くと、なんだかこの公園に来ることを目指して歩いてきた、というように読めるかもしれないが、実際はそういうわけではない。ただなりゆきでここにいるだけだった。

気温はやや肌寒い。ここに最初に座ったときには、この気温ではあまり長くは居られないだろうと思ったものだが、結果的にはもう二十分近くもここに腰掛けていることになる。ここに座りはじめたのは、たしか21時40分頃だった。今は22時を回った。

 

できる限り正確な表現を心掛けようとすると、話が一向に前へ進まなくなる。ともあれ、私に書きたい話などなかったのだから、それでいいのかもしれない。

誰もいない夜の公園、と、さっき書いたけれど、来たときからちらほらと人の出入りがあり、十分ほど前から向かいのベンチに男性がひとり座ったので、正確には誰もいない公園ではない。男性は膝の上でノートパソコンを開き、その画面の灯りが男性の顔を照らしていて、暗がりの中でそこだけぼんやりと明るくなっているのが見える。男性はスーツ姿で、缶に入ったなにかの飲み物を飲んでいる。年齢は40代後半といったところだろうか。足をしっかりと組んでそこから動かない。ときどき咳払いをしているのが聞こえてくる。また新しい音だ。

 

考え事をしたくて公園に来たような気もするが、辺りを観察しているうちに時間が経って、今さら何かを考えようという気も起こらなくなった。きっと私は眠いのだろう。コンビニに寄って、家に帰る。