#14

放っておけばセーターは伸びるし、あちこちに毛玉が付いたり、生地が痛んで穴が開いたりする。髪の毛だって放っておいたら伸び放題になって、もみ上げやら襟足やらが乱雑にはみ出してみっともなくなったりする。私の髪は天然パーマだから、伸びたらなおさらひどい有り様になる。髭だって放っておいたら汚らしくまばらに生えてくるし、好き放題に食べていたら腹にはじゃんじゃん肉が付く。

身なりに無頓着な私は、今までそのほとんどを「あるがまま」にして、気にしないようにして生きてきた。少し大袈裟だけど、そもそも身体なんてものが自分に付いていただろうか、と、そんなことを思うときさえあった。頭の中で色んなことをもやもやと考えたまま放っておくと、まるで自分が脳の中でだけ生きているような気分になってくる。脳だけで生きていけたらどんなにラクだろう。目と鼻と口と耳と、あとは手か足が一本ずつくらいあればそれで十分ではないか。腹も胸も背も腰も使わなければ邪魔なだけだ。そんな風に思うこともあった。

大人になると、髪型や服装についていちいち他人に口出しされなくなる。結局は人それぞれの好みの問題だし、個人的なことだから無闇矢鱈に触れにくい。不快だなと思われても、不快だよと伝えてくれる人はいない。自分の知らない場所で、あれは不快だったね、と言われるだけだ。他人に不快感を与えていたとしても、基本的には放っておかれる。不快感を与えないようになりたいけど、そんなことばかり気にしていたら自分の感受性を全く信用できなくなるから難しいところだ。

子どもの頃は、髪の毛が耳にかかるくらい伸びてくると、父に「浮浪者みたいだな」と軽口を叩かれたものだった。子どもだった私に「浮浪者」の意味は分からなかったけれど、なんとなく「それはマズいことなんだな」と感じ取って、いつも仕方なく床屋に連れられて、されるがままに髪を切られた。爪が伸びたから、切る、みたいな感覚で髪を切った。

床屋へ行くと必ず「どんな髪型にしますか?」と訊かれる。それがなによりもイヤだった。なんて答えたらいいのか分からなかったので、いつも決まってしどろもどろになった。いまだにそれは変わらなくて、床屋へ行くと自分がどんな髪型にしたいのかをいちいち答えなければならないから、次第に私は外へ髪を切りに出掛けなくなっていった。今はバリカンを買って自分で適当に刈り上げている。服にしても、無印良品ユニクロかそこらの手頃なスポーツ用品店で買った地味な洋服を、いつも何の工夫もなく、寒さを凌げればいいとばかりに、ただ着ている。

先日、私が着ていたセーターを「パジャマみたい」だと指摘されたことがあった。たしかにヨレヨレになってはいたが、自分としては着心地もいいしまあいっかというぐらいのセーターだった。が、どうやらそんなことも言ってられないらしかった。的確な批判の声は下手な褒め言葉よりよっぽどありがたい。貶されるのには慣れている。べつに確固たる自分の美意識で髪を伸び放題にしたり適当な服を着ているわけではないから、貶された上で指導してくれるなら非常に助かる。これは甘えなのだろうか。自分としては自分の外見にまじでなんのこだわりも、なんの思い入れも込めていないから、外見で自分を判断されると非常につらいものがある。けれど、世の中を渡っていくにはそんなことばかり言っていられないのだろう。そんなことくらい私も知っている。目に見える部分でしか人は人を判断できない。

というか、そんなことよりも、貶されるのには慣れているなんて軽々しく言ってしまって、私はそんなんでいいのか、という問題がある。他人を跳ね除けてでも主張したい何か、これだけは譲れないと思える何か、自分のプライドを掛けられる何かは、ほんとうに私の中にないのだろうか。ナメられることに慣れすぎてやしないか。下手に出ておけばとりあえずなんとかなると思いすぎてやしないか。まずは身なりを整えるところから、他人前に出しても恥ずかしくない自分というものを作っていきたい。

  

人はなんのために髪を切ったり、服を装ったりするのだろう。オシャレに気を配っている人を見ると、カワイイとかカッコイイとか以前になんとなく「強そうな人だなあ」という印象を受けることがある。他人の視線を惹きつけるような魅力を持っている人は、その魅力を持つがゆえに、逆に他人を容易に近付けさせないような雰囲気を漂わせる。もしかしたら人は、強くなりたいからオシャレをするのではないか。ナメられたくないから自分を着飾るのではないか。ありたい自分であろうとすることに、他人の口を挟ませない。そこに強さが滲み出るのではないか。

なんだかよくわからない文章になってしまったけれども、11月はこんな感じで自分の身なりに多少なりとも気を配る月間にしていきたい。まずはビリーズブートキャンプによるダイエットを引き続き行う。それから今度、無料でカットモデルを募集している美容院を探して、気合いを入れて乗り込んでみようと思う。美容院に対する苦手意識を打ち破りたい。今の自分ならオシャレな美容師に話しかけられてもビビらずにいられるのではないか。気が向いたら行ってみよう。